
海に落ちたら「おぼくれるぞ!」
長崎で暮らしていると、当たり前のように使っている言葉があります。
それが方言だなんて、考えたこともない。
ところが県外へ出てみると、
「え?今なんて言った?」
と聞き返されて、初めて気づくことがあります。
今回紹介するのは、
「おぼくれる」
という言葉。
長崎では「溺れる」という意味で使われる言葉です。
「そがん深かところ行ったら、おぼくれるばい!」
「海ん中に落ちたら、おぼくれるぞ!」
長崎で育った人なら、こんな言い方を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
私自身もずっと普通に使っていたので、これが長崎の言葉だと意識したことはありませんでした。
そんな「おぼくれる」が方言だったと初めて知ったのは、大学生になって長崎を離れたときのことでした。
マリオカートで知った「おぼくれる」が方言だった瞬間
大学時代、私は福岡で暮らしていました。
大学に入ってまだそれほど経っていなかった頃。
長崎出身の同級生3人くらいと、福岡出身の先輩1人でマリオカートをしていたときのことです。
みんなでワイワイ遊んでいると、海があるコースで長崎出身の友人の一人がコースを外れ、そのまま海へ。
そして再び危なっかしいところを走っている友人に、別の長崎出身の友人が何気なく一言。
「またそっち行ったら、おぼくれるぞ!」
長崎出身の私たちは、そのまま普通にゲームを続けていました。
ところが。
福岡出身の先輩だけが、
「……???」
「今なんて言った?」
「おぼ……何?」
「おぼくれる???」
完全に会話が止まりました(笑)。
私たち長崎組からすると、むしろ、
「え?『おぼくれる』知らんと?」
という感じ。
そこで初めて、
「おぼくれるって長崎弁なんだ!」
と気づいたのを今でもよく覚えています。
意味を説明すると、
「ああ!溺れるってことか!」
となって、その場はみんなで大笑い。
大学に入って長崎を離れたばかりだったこともあり、私にとっては「自分がずっと普通の言葉だと思っていたものが、実は方言だった」と気づいた最初の出来事のひとつでした。
何十年も前の、ただマリオカートをしていただけの出来事。
それなのに今でも覚えているのだから、よほど印象に残っていたんでしょうね(笑)。

「おぼくれる」の意味は「溺れる」
「おぼくれる」は、長崎で使われる言葉で、意味はそのまま、
「溺れる」
です。
海や川、プールなど、水の中で溺れそうになったときに使います。
たとえば、
「そがん深かところまで行ったら、おぼくれるよ!」
「あんまり沖まで行ったら、おぼくれるばい!」
といった感じ。
子どもに注意するときにも、友達同士でふざけているときにも使える言葉です。
長崎では、わざわざ「今から方言を使います」という感覚なんてもちろんありません。
普通に口から出てくる。
だからこそ、県外で「何それ?」と言われるまで、方言だと気づかないんですよね。
私自身、大学時代のあの出来事がなければ、もっと長い間「おぼくれる」を全国共通の言葉だと思っていたかもしれません(笑)。
「おぼくれる」って長崎だけの言葉?
「おぼくれる」に近い表現は、長崎だけではなく、九州や西日本の一部などでも使われることがあるとされています。
方言というものは、県境できれいに分かれているわけではありません。
隣り合った地域で似た言葉が使われていたり、同じ県内でも地域や世代によって言い方が違ったりします。
そのため、
「おぼくれる=長崎だけで使われる言葉」
と完全に区切ってしまうより、
「長崎でも昔から使われてきた言葉」
くらいに考えるのがよさそうです。
ただ、私が大学時代に経験したように、長崎からそう遠くない福岡でも「聞いたことがない」という人がいる。
同じ九州なのに、普通に使っていた言葉が通じない。
これも方言のおもしろさですよね。
海の街・長崎だからこそ身近に感じる言葉
長崎は、海との距離が近い街です。
港があり、漁港があり、少し車を走らせれば海がある。
海水浴へ行ったり、磯で遊んだり、釣りをしたり。
長崎で暮らしていると、海は特別な観光スポットというより、日常の風景としてそこにあります。
だから、
「そっち行ったらおぼくれるよ!」
という言葉も、長崎の暮らしの中では自然に使われてきたのかもしれません。
もちろん、海で遊ぶときには十分な注意が必要です。
でも言葉そのものを振り返ってみると、そこには、その地域で暮らしてきた人たちの日常が見えてきます。
方言というのは、単なる「標準語との言い方の違い」だけではない。
その土地の風景や暮らし、人との会話と一緒に残ってきたものなのかもしれません。

長崎を離れて初めて気づく「長崎弁」
長崎にいる間は、周りも同じ言葉を使います。
家族も使う。
友達も使う。
学校でも普通に通じる。
だから、それが「長崎弁なのか」「標準語なのか」なんて、いちいち考えません。
ところが進学や就職などで県外へ出ると、突然、
「それ何?」
と言われる。
そこで初めて、
「え?これ長崎だけ?」
となります。
前回NAGASAKI MAGAZINEで紹介した「なおす」も、まさにそういう言葉でした。
「ランドセルなおしとかんばよ」
長崎では、
「ランドセルを片づけておきなさい」
という意味で普通に通じます。
でも地域によっては、
「ランドセルを修理するの?」
となってしまう。
そして今回の「おぼくれる」。
長崎では「溺れる」の意味で何気なく使っているのに、県外の人からすると、
「おぼ……何?」
となる(笑)。
こういう言葉こそ、方言のおもしろさなのかもしれません。
「ばい」「たい」だけじゃない長崎弁
「長崎弁」と聞くと、
「〜ばい」
「〜たい」
「〜と?」
といった語尾を思い浮かべる人も多いかもしれません。
もちろん、それも長崎らしい言葉です。
でも実際に暮らしていると、それ以上に面白いのが、
自分たちが方言だと思っていない言葉。
「なおす」。
「おぼくれる」。
普段の生活の中で無意識に使っている動詞や言い回しにも、地域の言葉は残っています。
本人たちにとっては普通すぎて、わざわざ「長崎弁」として意識することもない。
でも長崎の外へ出た瞬間、
「それどういう意味?」
と聞かれる。
その瞬間、何気なく使っていた言葉が急に「長崎の言葉」になる。
NAGASAKI MAGAZINEで残していきたいのは、むしろこういう言葉なのかもしれません。
海の写真を見ながら思い出した、ひとつの長崎弁
今回「おぼくれる」を記事にしようと思って、スマートフォンに残っていた長崎の海の写真をいくつか見返してみました。
透き通った海。
夏の海水浴場。
青い空と海。
そして夕暮れの海。
長崎で暮らしていると、こうした風景が意外なほど身近にあります。
写真を見ながら、
「ここで子どもが沖まで行ったら『おぼくれんごとね!』って言うよな」
なんて考えてしまう(笑)。
きれいな長崎の海の風景と、大学時代のマリオカート。
一見まったく関係なさそうなものが、
「おぼくれる」
という一つの言葉でつながっていく。
そう考えると、方言って意味だけを調べるより、その言葉を使った場面や記憶と一緒に振り返った方が、ずっとおもしろいのかもしれません。

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「とっとっと?」
「すきばい」
「ばりぬっか!」
そして、
「なおす」
「おぼくれる」。
長崎に住んでいると、どれも特別なものではありません。
むしろ普通すぎて、普段は意識することすらない言葉です。
でも長崎の外へ出た瞬間、
「それ、どういう意味?」
と聞かれる。
その瞬間、何気ない日常の言葉が「長崎らしさ」に変わります。
有名な観光地だけが長崎ではありません。
坂道を歩くこと。
海が近くにあること。
街角に猫がいること。
そして、いつもの会話の中に長崎弁があること。
そんな長崎で暮らす人にとっての「普通」こそ、この街のおもしろさなのかもしれません。
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まとめ|方言だと知らずに使っていた「おぼくれる」
大学時代、マリオカートをしていて何気なく飛び出した、
「おぼくれるぞ!」
という一言。
長崎出身の私たちには普通に通じて、福岡出身の先輩にはまったく通じない。
今思えば、たった一言の何気ない会話でした。
でも、その出来事があったからこそ、
「自分たちが当たり前に使っている言葉にも、長崎らしさがあるんだ」
と気づくことができました。
長崎で暮らしていると、まだまだこういう言葉がありそうです。
自分では標準語のつもり。
でも県外で使ってみたら、
「???」
となる言葉(笑)。
そういう何気ない言葉を拾っていくと、観光地や歴史だけでは見えてこない、もうひとつの「長崎」が見えてくるような気がします。
NAGASAKI MAGAZINEでは、そんな長崎の日常に隠れている言葉も、これから少しずつ紹介していきたいと思います。
皆さんにも、
「これって長崎弁やったと!?」
と驚いた言葉はありませんか?
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