
看板の確認に来ただけだった、千々の海岸
長崎市南部、三和地区から海沿いの道を進んだ先にある千々(ちぢ)。
これまで何度か近くを通ったことはありましたが、ゆっくり海岸を歩いたのは今回が初めてでした。
訪れたきっかけは、仕事で製作した看板の設置確認。
写真を撮って、確認して、そのまま帰る。
……はずだったんですが、海岸を見た瞬間、その予定はなくなりました(笑)。
きれいな海はもちろんですが、それ以上に心に残ったのが、海岸沿いの道や民家、防風林、山から海へ流れる水、そして集落全体の雰囲気。
そこには、自分が子どもの頃に見ていた昔の香焼の海岸によく似た風景が残っていました。
気づけば30分ほど、海岸を歩いたり、岩場を眺めたり。
今回は、そんな千々で出会った風景を紹介します。

千々へ向かう道から、すでに面白い
今回は鶴見台方面から三和へ向かい、三和中学校を過ぎた先のT字路を左へ。
普段、川原海水浴場や野母崎方面へ向かうときは右へ曲がるので、自分にとって左側はほとんど行くことのない方向です。
そして、このT字路でいきなり目の前に海が広がります。
「おお……!」
まずここでちょっと感動(笑)。
そこからしばらく海岸線を走るのですが、道は徐々に登り始め、気がつけば景色は海から山へ。

海から山へ。そして、また海へ。
途中にはトンネルがあり、周囲は木々に囲まれています。

海沿いを走っていたはずなのに、
「完全に山の中やん(笑)」
という雰囲気。
道沿いには畑やビニールハウスも見えました。

さらに進むと、山の斜面にはたくさんの果樹。
ビワの木でしょうか。

長崎の海と山、そして斜面を利用した畑。
こういう景色を見ると、なんとも言えない「長崎らしさ」を感じます。
そして木々の間から、ときどき海が見える。

これがまた最高でした。
山道を進んでいるのに、少し視界が開くと、その向こうには一面の海。
この「海が見えたり、隠れたり」する感じも、千々へ向かう道の面白さだと思います。
山を越えると、千々の集落が見えてくる
しばらく走ると道は下りへ。
すると、それまで木々に隠れていた海と集落が少しずつ姿を見せ始めます。

山の斜面に家があり、その下に小さな集落。
そして、そのすぐ先には海。
この景色もまた、長崎らしい。
集落へ入ると小さな商店や簡易郵便局もあり、観光地というより、今もそこで人が暮らしている静かな海辺の町という印象でした。
そして集落の間を抜けていくと・・・
千々の海岸へ出ます。
千々海岸。まず驚いたのは海のきれいさ

この日は天気にも恵まれ、海が本当にきれいでした。
透明度も高く、岩の間まで水が透けて見えます。

いわゆる整備された海水浴場とは違い、大きな岩や平たい石が多く残る自然な海岸。

この石を見て思い出したのが、近くにある川原海水浴場。
川原にもこうした平たい石が多くあります。
一方、自分が子どもの頃に遊んでいた香焼の海岸は、黒っぽい砂浜に石が少し混じるような海岸でした。
同じ長崎の海でも、場所によって海岸の表情がこんなに違う。
波の当たり方なのか、地形なのか。
そんなことをぼーっと考えながら海を眺める時間も、なかなかいいものです。
海より先に、昔の香焼を思い出した
そして今回、一番心に残ったのはここでした。

海岸沿いの細い道。
そのすぐ横に並ぶ民家。
堤防と海。
そして道路沿いに立つ大きな木。
この景色を見た瞬間、
「昔のうちの前に、めちゃくちゃ似とる……」
そう思いました。
道ができる前の、香焼の海岸
現在、香焼の竹崎周辺は海岸が埋め立てられ、その上を道路が通っています。
でも、自分が子どもの頃は、今とはまったく違う景色が広がっていました。
今の道路が完成したのは、自分が高校へ入る少し前だったと思います。
それ以前は、海岸沿いに細い道が通り、そのすぐ横が海。
堤防沿いには車が停まり、道路には防風林のように大きな木がずらっと並んでいました。
たしか、アコウの木だったと思います。
真夏の昼間でも、その木の下に入ると日差しが遮られ、海からの風がスーッと抜けて少しだけ涼しい。
子どもの頃は当たり前だった、夏の海辺の風景です。
ただ、いいことばかりではありません(笑)。
実が落ちる時期になると、道路にはたくさんの実が落ちていました。
うっかり踏めば靴の裏は汚れるし、木陰を求めて車を停めれば、今度は車の上に実が落ちて大変なことに。
親も何度か困っていた記憶があります。
「じゃあ木の下には停めんとこう」
となるんですが、真夏の日向に停めた車へ戻れば、今度は車内がとんでもなく暑い(笑)。
今思えば、そんなことも含めて、あの頃の香焼の夏だったんだと思います。
今でも自宅の前には、その頃から残っているアコウの木が数本あります。
そして今回、千々の海岸沿いの道を歩いていると、そんな昔のことまで次々と思い出しました。
似ていたのは、海岸沿いの道や大きな木、民家の並び方だけではありません。
真夏の強い日差し。
木陰に入ったときの少しだけ涼しい空気。
海から抜けてくる風。
景色だけではなく、その場所で感じるものまで、どこかあの頃の香焼に似ていたんです。

千々でこの木と道を見た瞬間、その頃の風景が一気に戻ってきました。
動画で感じる、千々の海岸沿いの空気
写真だけでは伝わりにくい、この場所の空気も少しだけ。
海岸沿いの道を歩くと、頭の上では大きな木の葉が風に揺れ、その向こうには青い海が見えてきます。
真夏の強い日差しの中でも、木陰に入ると少しだけ涼しく、海から吹いてくる風が葉を揺らす音も聞こえてきました。
特別な観光スポットがあるわけでも、何か大きな出来事があるわけでもありません。
ただ、海沿いの道を歩いているだけ。
でも自分にとっては、この風景と音、この夏の空気そのものが、昔の香焼を思い出させてくれました。
石垣に根を張る大きな木

この姿も印象的でした。
古い石垣を包み込むように伸びた根。
いつからここにあるのかは分かりません。
でも、長い間この集落と海を見てきたんだろうな、と感じさせる風景です。
こういうものは有名な観光スポットでも何でもない。
だけど個人的には、こういう場所に一番目がいってしまいます。
海岸へ流れ込む水にも、懐かしさを感じた

千々の海岸には、山側から流れてきた水がそのまま海へ注いでいる場所があります。
これもまた、昔の香焼を思い出した風景のひとつ。
子どもの頃の自宅前の海岸にも、山側から水が流れ込んでいました。
千々のほうがずっと立派ですが(笑)、山があり、集落があり、そこから流れてきた水が海へ出ていく。

海だけではなく、山と集落と海が全部つながっている。
そんな風景が今も残っています。
海老瀬とは、また違う「懐かしさ」
以前、NAGASAKI MAGAZINEで紹介した海老瀬の海岸でも、昔の香焼を思い出しました。
岩場の形や海そのものの雰囲気は、海老瀬のほうが記憶にある昔の海岸に近かった気がします。
でも、
海岸沿いの細い道。
民家の並び方。
大きな木。
山と海の距離感。
そういった「人が暮らす海辺の風景」は、千々のほうが圧倒的に昔の香焼に似ていました。
同じ「懐かしい」でも、少し種類が違う。
それが面白かったです。
じいちゃん、ばあちゃんのことまで思い出した
海岸を歩きながら、亡くなった祖父や祖母のことまで思い出していました。
祖父は漁師でした。
子どもの頃は、海がすぐそばにある生活が特別なものだなんて考えたこともありませんでした。
でも町の姿は少しずつ変わり、道路ができ、海岸線も変わりました。
便利になった一方で、昔そこにあった景色はもう見ることができません。
千々で見たのは、もちろん昔の香焼そのものではありません。
それでも、
「ああ、昔はこんな感じやったな」
と思わせてくれるものが、そこにはたくさん残っていました。
懐かしくて、嬉しくて。
でも、少し寂しい。
今回の千々で一番心に残ったのは、海の美しさ以上に、そんな不思議な気持ちだったのかもしれません。
本当は、看板を確認して帰るだけだった(笑)

そもそも今回ここへ来た目的は、この看板の確認でした。
以前、長崎県警察からご依頼いただき、密航・密漁・密貿防止の啓発看板を弊社でデザイン。
看板の製作・設置は協力業者にお願いし、すでにお客様から設置確認もいただいていましたが、自分ではまだ現地を見ていませんでした。
なので今回は、
「写真撮って確認したら帰ろう」
くらいのつもり。
……だったんですけどね(笑)。
この景色を見て、そのまま帰れるはずもなく。
気づけば30分ほど海岸へ下り、岩場を見たり、道を歩いたり、写真を撮ったりしていました。
仕事がきっかけで来た場所でしたが、思いがけず忘れられない場所になりました。
千々を訪れるなら
千々の海岸は、一般的な海水浴場のような場所とは少し違います。
今回確認した範囲では遊泳の可否までは分からなかったため、泳ぐことを目的に訪れる場合は事前に最新の情報を確認してください。
また、周辺には民家があり、とても静かな集落です。
大人数で遊びに行くというより、
海を眺める。
景色を見ながら歩く。
静かな長崎の海辺を感じる。
そんな楽しみ方が似合う場所だと思います。
車で向かう場合、三和方面から千々までの道路は極端に狭い印象はありませんでしたが、道中は街灯が少ない区間もあります。
初めて訪れるなら、個人的には明るい時間帯がおすすめです。
いつか夕暮れの千々も見てみたい。
そのときも、静かに訪れたいと思います。
SAKAMACHI SUPPLY的な視点
SAKAMACHI SUPPLYでは、長崎の有名な観光地だけではなく、普段の暮らしの中にある風景を大切にしています。
坂、路地、海、猫、方言。
そこに暮らしている人にとっては当たり前でも、少し立ち止まって見ると、この街にしかないものがたくさんあります。
千々で感じたのも、まさにそんな長崎でした。
海だけなら、きれいな場所はほかにもあります。
でも、
山の斜面にある畑。
海へ続く細い道。
集落の家々。
石垣に根を張る木。
そして、そのすぐ先に広がる海。
それが全部一緒にあるから、千々の風景になる。
長崎の“今”を、暮らす目線で。
こういう何気ない風景も、これから残していきたいと思います。
🛍️ SAKAMACHI SUPPLY
SAKAMACHI SUPPLYでは、長崎の「坂」「港」「方言」「街の風景」をモチーフにしたアイテムを展開しています。
長崎を知っている人には「懐かしい」。
長崎を知らない人には「なんだろう?」と思ってもらえる。
そんな**「長崎らしさ」**を、シンプルなデザインに込めています。
まとめ|知らなかった場所で、自分の記憶に出会った

今回、仕事がなければ千々の海岸をゆっくり歩くことはなかったかもしれません。
目的は看板の確認。
それが、海岸へ下りて30分。
そして気づけば、昔の香焼や、祖父母のことまで思い出していました。
街は変わっていきます。
昔の風景がそのままずっと残るわけではありません。
だからこそ、別の場所でふと似た景色に出会ったとき、忘れていた記憶まで一緒に戻ってくることがある。
今回の千々は、自分にとってそんな場所でした。
昨日までほとんど知らなかった場所なのに、なぜか懐かしい。
長崎には、まだまだこういう場所があるのかもしれません。
またひとつ、この街を歩く楽しみが増えました。
📌 関連記事
坂
長崎の街を象徴する「坂」。
その名前の由来や歴史、坂から見える景色などを紹介。
まち歩き
観光地だけではない、長崎の日常を歩く。
住宅街や坂道、公園、街並みなど、歩いて見つけた長崎の魅力をご紹介します。
長崎弁
「とっとっと?」「好きばい!」など、
長崎で使われる言葉や方言の意味、面白さを紹介。
猫
長崎の街で出会う猫たち。
坂の街と猫の風景など、長崎ならではの魅力を紹介。
港・海
長崎の港や海辺で出会う風景。
漁港や砂浜、海と暮らす街など、長崎ならではの魅力を紹介。
長崎の自然
長崎の山や森、公園など、身近にある自然の風景。
暮らしのすぐそばで出会える、長崎の自然や季節の魅力を紹介。
長崎のイベント
長崎の街で開かれる、さまざまなイベント。
お祭りや花火、季節の催しなど、人が集う長崎の風景や魅力を紹介。
NAGASAKI MAGAZINEについて
NAGASAKI MAGAZINEは、長崎の坂や方言、港町の風景、歴史、そして暮らしの魅力を発信するWEBマガジンです。
「長崎って面白い。」
そんな新しい発見を、少しずつお届けしていきます。
この記事を書いた人
道下 真悟(みちした しんご)
有限会社長崎ダイレクトセンター 代表取締役 / Web解析士
長崎生まれ、長崎育ち。
Webサイト制作やDM発送など、企業の情報発信をサポートする仕事に携わる一方で、休日や仕事の合間にはカメラを片手に長崎の街を歩き、坂道や路地、海、港、歴史ある街並みを巡っています。
NAGASAKI MAGAZINEでは、実際に自分の足で歩き、見て、感じた長崎の魅力を写真とともに発信中。
有名な観光地だけでなく、何気ない坂道や住宅街、地元の人しか知らない景色まで、「歩いてこそ見えてくる長崎」をテーマに、この街の魅力を一つひとつ記録しています。
これからも長崎の街を歩きながら、この街の魅力を皆さんにお届けしていきます。

